笙のこと 1
笙が初めてこの世にあらわれたとき、どのようなものだったのだろうと、時折考えます。一時期、笙の文献や資料を夢中になって読んでいたことがありました。特に印象的だったのは、
楽器の発生・変遷および変転
ーFree reed楽器を中心にー 郡司すみ
(国立音楽大学 音楽研究所年報 1985)
笙の発生について
ーフリー・リード発生に関する假説ー 柿木吾郎
(フィルハーモニー 1955年 10月号)
今、読み返してみて、郡司先生の論文、真摯なお人柄とともに、その文章の格調の高さに、心が洗われる思いがします。
笙の匏の部分は、原初はおそらくひょうたん(葫芦)だったのでしょう。笙の歴史は大変古くて、原初のものは、なかなか出土しないだろうと思われます。青銅でひょうたん(葫芦)の形を模したものが出土しています。あっ、それでも、1978年に出土した曽侯乙墓のものがひょうたんかな。これからも、どんどん研究は進んでいくのでしょう。
笙のリード(簧)に関しては、私は口琴との関連に、大いに興味があります。もっとも、私は研究者ではないので、笙吹きとしての勘だけで、遊んでいるだけです。笙の発生に関しては、いくつかの神話があるのですが、その中で、以前から、気になって気になってしょうがないものがありまして。あらすじを書いておこうと思います。
「葫芦笙の由来」
昔々、傈僳族の貧しい男が、病のため亡くなった。残された子供は、墓を作ることもできず、七七四十九日泣き続けた。悲しみのため、兄の胸は張り裂けて心臓が飛び出し、地面に落ちると、そこから一本の小さな筍が生えた。妹の心臓も地面に落ちると、一本の細い葫芦の芽が出て来た。
何年か過ぎ、また傈僳族の一家がやって来た。五人の息子がいたが、皆病気にかかり、死んでしまった。残された父が竹で口琴を作り、弾いてみると、長男の声がした。二つ目の口琴を母が弾いてみると、次男の声がした。どうにかして五人の息子の声を同時にききたいと思い、父は五本の慈竹を伐出すと、それから長い管を削り出し、別に金竹で弁を作って、各々の管に取り付けた。母は葫芦を摘んできて中身をくり抜き、五本の管を挿し込んで、最も高い管を長男、他のを兄弟とした。
伝わっている地域:四川省涼山州
採集整理:夏 承政
どうでしょう。これは、「笙のリードの原形イコール口琴の原形」説です。もちろん、神話ですので、根拠にはなりません。けれども、神話の中には結構、本質的なものがかくれているような気がするんですよね。
そして、これは、もっと言ってしまえば、柿木氏が書かれている「女媧之笙簧」の「簧」とは口琴である、という説につながるお話です。