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笙のこと 2

hiromi ueda

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笙の音に対するイメージ、人それぞれに、また時代によっても、いろいろだと思います。「天空から差し込む一条の光の束」「笙は皿」「時空を超越した音」などなど。

笙の奏法で、巴の形の様に頭を強くする、というものがあります。初めて習った時、とまどいを感じました。それまでどちらかといえば、笙の音に対して、時が止まったかのような、静止した美しさのイメージを持っていたので、自分の中で上手く折り合いをつけることができませんでした。

その後、フランスに2年間滞在することとなりました。覚悟していたとはいうものの、フランス生活は、大変厳しいものでした。幼少の頃より、それはそれは厳しく、自己主張することを叩き込まれるフランス人。「思いやり」などという日本的概念が通用するわけもなく。東洋文化を解することがインテリとしての存在証明と考える人も多く、様々な要望、質問を受けました。

「顔が見えない。自分は演出家。楽器を傾けて吹きなさい。」「GAGAKUは何を祈っているの?世界平和を祈っているの?」違う。雅楽はそのようなものではないと表現したくても、即答できない。きちんと自己主張できない日本人は、「甘えの構造」とカテゴライズされる。今まで、自分がいかに、哲学を持たずに笙を吹いてきたのか、嫌というほど思い知らされる日々。

ほどなく帰国して、笙の短期集中講座を受け持つこととなり、自宅で手持ちの資料を整理していた時のこと。一枚の写真に、はっと息をのみました。


巴ー1


曽侯乙墓の笙。現存する最古の笙です。葫芦の底面部に、巴の形が見てとれました。

この資料、何年も前からずっと持っていたのに、どうして今まで気づかなかったんだろう。殷の時代までさかのぼるとされる笙の歴史と、日本での伝承が、つながったように思いました。

私の心は決まりました。妄想と思っていただいて結構。

巴の形は笙の本質。森羅万象、魑魅魍魎。ありとあらゆるものが渾然一体となった凄まじいエネルギーを内包するもの。


「笙生也。象物貫地生。以匏為之、其中空以受簧也」

簧の字の意味如何といふに、まず竹かんむりは、いまは金でつくつているが昔は竹を以て之をつくつた。黄なる字は宮商角徴羽の五音のうちの徴にあたる最も重要なる音をさす。黄鐘調とは即ちそれをいふ。五音の王なり。黄はまた空を意味す。風は空を以て自在、口の中は空なり、舌は風のはたらき也。この全意を示すのが簧の一字、最も深厚の意を含み、当家の秘なり。天地初めて物を生ずるときの空と起、無より有への轉をなす。風、舌の働きを示す簧の字肝要なり。

   「応仁四話」より 體源抄由来  唐木順三著




Posted byhiromi ueda